油絵に使うオイルの種類【画用液の使い方と捨て方】

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油絵具の画用液についてお話ししたいと思います。

油絵具は絵の具だけでも十分な固着力のある絵の具ですが

画用液を使うことで

画面の質感や絵具の流動性などを変えるサポートを行えます。

画用液の役割

画用液は油絵の具を薄めてサラサラにして描きやすくしたり

光沢のある画面づくりに役立てたり

反対に光沢のないマットな画面を作ったりできます。

乾燥速度を調整したり、

描写の役に立つだけでなく

画面保護のためにコーティングする画用液もあります。

 

こだわりのある作家は

あらゆる画用液を自分で調合して

オリジナルのオイルを制作したりします。

 

画家は目的に合わせてあらゆる画用液を使い分けます。

画用液の効果を知ることで表現の幅も広がりより楽しい制作ができます。

 

油絵の本場はヨーロッパですから

日本で流通しているメーカーも国産以外にもさまざまあります。

日本のホルベイン、クサカベ、マツダ

イギリスのウィンザー&ニュートン

フランスのルフラン

オランダのターレンス

イタリアのマイメリ

 

 

乾性油と揮発性油

油絵の制作に使うオイルは大まかに分けて2種類あります。

乾性油揮発性油です。

 

乾性油は油絵具に皮膜を与え乾燥固化させるオイルです。

 

油絵具は乾燥する時に酸素と反応することで乾燥します。

水彩絵の具は水と混ぜ合わせて描くので

水が蒸発すると蒸発した水の分だけ絵の具の体積は減ります。

油絵具は油が混ざっているので油が酸化して固まります。

油が液体から固体に変わることで乾燥するため

絵の具が乾いた後も体積がほぼ変わらず厚みを持った状態を維持します。

乾性油は乾燥後も体積が残り続けるオイルです。

 

揮発精油は油絵具を薄めて描きやすくするオイルです。

揮発するので乾燥後は画面に残りません。

絵の具の濃度を調整して流動性を与えます。

揮発すると絵の具の皮膜と光沢を奪い光沢のないサラサラした画面にします。

 

 

普通の油と画用液の違い

油というものは水に溶けずドロっとしたものです。

身近な油と言えばサラダ油オリーブオイルなどをイメージすると思います。

 

油には空気に触れて固化するもの、非常にゆっくり固化するもの、全く固化しないものがあり

性質に応じて乾性油、半乾性油、不乾性油と呼ばれます。

 

この違いは油を構成する分子の中に含まれている不飽和脂肪酸の比率に関係しています。

絵画に使われる油は乾性油です。 

 

油絵具や油絵のオイルが乾くというのは

一つだった分子が繋がりあって大きな分子になり

液体である油が流動性を失って固形になる現象です。

 

オリーブオイルが絵画に使われない理由もここにあります。

オリーブオイルはオレイン酸を多く含みなかなか乾きません。

それに対してリンシードオイルなどはリノール酸リノレン酸の比率が高く

乾く性質があります。 

アマニ油(リンシードオイル)はリノレン酸が60%も含まれているのに対し

オリーブオイルほとんど含まれていません。

             

ちょっと難しい話ですがこの

オレイン酸やリノール酸やリノレン酸というのが乾燥に大きく関わっています。

分子の結合の話になるので割愛しますが

オレイン酸を多く含むと乾燥せず

逆にリノール酸やリノレン酸を多く含んでいる油はよく乾きます。

 

油を含んでいる油絵具水彩画の乾き方は全く違います。

見ている分には分からないことですが

水彩画など水を使って絵を描く場合は

絵の具に含まれた水分や有機溶剤が蒸発して固形分が残った状態になります。

これを蒸発乾燥と言います。

水が蒸発することで全体が軽くなります。

 

それに対し油絵具には乾性油が含まれているので完全に乾燥するまでは

逆に重くなり硬化とともに軽くなります。 

油絵具は乾燥の過程において酸素を吸収します。

乾燥するにつれて絵の具の重量が増し、その後減少していくのは

酸素の吸収と内部重合・縮合による揮発性物質の生成と散逸の結果です。

このような乾燥を酸化重合と言います。

 

 

画用液の種類

画用液には様々な種類があります。

何十種類もあるオイルを使い分けることは難しくもあり楽しいことです。

 

調合溶き油

1本で様々な役割を兼ね備える画溶液。

乾性油、揮発精油、ワニス、乾燥促進剤があらかじめ調合されています。

 

・ペインティングオイル 

重合アマニ油に揮発精油、乾燥促進剤、合成樹脂を混合した油。

・ルソルバン

精製ケシ油を使用した油。

ペインティングオイルより黄変しにくいが乾燥速度と画面の丈夫さはペインティングオイルよりやや劣ります。

 

乾性油

植物の種を絞った油で空気中の酸素と反応することによって固化します。

油絵具に加えることで固着力とツヤ、透明度を上げ作品を堅牢なものにします。

ペインティングオイルのベースになる油。 

 

・リンシードオイル

アマの種から抽出。

黄変しやすいが塗膜は強固です。

・ポピーオイル

ケシの種から抽出。

黄変しにくいがリンシードより乾燥が遅く、塗膜は強固ではない。

・サフラワーオイル

ベニバナの種から抽出。

黄変しにくいがリンシードより乾燥が遅く、塗膜は強固ではない。

日本のメーカーでは生産中止になっている。

・ウォールナットオイル

くるみから抽出。

黄変しにくく乾燥もリンシードより早いが日本のメーカーでは生産されていない。

金額も割高。

 

揮発性油

油絵の具や画用液を薄めるのに使います。 

 

・テレピン(ターペンタイン)

松ヤニから精製。

独特の匂いがあり、苦手な人にはかなりキツい。

蓋を開けっぱなしにしたり、油壺で長時間経過すると

黄変樹脂化してしまう。

亀裂や乾燥しなくなる原因になるので酸化させずに使うようにしましょう。

殆どの樹脂や蝋を溶解できます。

・ペトロール

石油からできた揮発性油。

テレピンやスパイクラベンダーオイルより乾燥が遅く、溶解力も弱い

酸化重合しないので黄変の心配がない

・スパイクラベンダーオイル 

大ラベンダーとよばれる花の花と茎から蒸留して作られる揮発性油。

揮発は遅く、界面活性剤の効果により、上塗りワニスなどのはじきを防止し、絵具の付きをよくします。

殺菌力があり防腐効果もある。

金額は他の揮発性油より割高。

 

乾燥促進剤

油絵具の乾燥を早める画用液です。

使いすぎると亀裂や縮みの原因になるので使用量には注意が必要です。

・シッカチフ 

色の濃い「ダーク」「ブラック」「クルトレ」と

色の淡い「ブラン」「ホワイト」「ペール」の2種類のタイプがあります。

色の濃いシッカチフは乾燥しやすいですが

使いすぎると画面にシワやヨリを作る原因となるので注意が必要です。

 

ニス

光沢を調整したり、

絵の具の固着を良くするために使用します。

・ダンマルワニス

固形の天然ダンマル樹脂を溶解したものです。

植物性乾性油と揮発性油と混ぜて自作の調合溶き油を作ります。

・パンドル

そのまま絵の具に混ぜて使ったり、ペインティングオイルに混ぜたり

調合溶き油を自作するときに使います。

・ルツーセ

上に塗る絵の具の固着を良くします。

乾燥してしばらく経過した画面に加筆する時に塗ると絵の具の食いつきが良くなります。

・タブロー

保護用のニス。

空気中のほこりやタバコのヤニなど様々な汚れから作品を保護します。

タブローを塗った作品の表面が汚れてきたらペトロールなどで拭き取り、

古いタブローの膜を拭い、

タブローを新しく塗り直します。

 

主な補助剤

・フェキサチーフ 

鉛筆や木炭でキャンバスに描いた下描きを取れないように定着させるものです。

フェキサチーフをかけずに絵の具を乗せると色が混ざって濁ってしまいます。

瓶入りのものも霧吹きなどで画面に吹き付けるため、

あらかじめスプレー缶タイプで売っているものを買った方が良いです。

・ストリッパー、リムーバー

固まった絵の具の剥離剤

洗い忘れて固まった木製パレットの上で取れなくなった油絵の具を除去するのに便利です。

仕上がった画面の上の絵の具を部分的に剝がすこともできますが

画面を壊す行為なので使い方には注意が必要です。

 

 

油絵の具を早く乾かしたい! 

油絵の具は水彩絵の具に比べてとても乾くのが遅いです。

油絵具は水分の蒸発で乾くのではなく

化学反応によって乾くため仕方ないことなのです。

 

乾燥促進剤のシッカチフをプラスしても

乾燥スピードを早めるのには限界があります。

そもそも市販の油絵の具には乾燥促進剤が加えられていることが多いです。

 

シッカチフの使用量には限界がありますから

乾燥のためにあまり多く使用することはできません。

 

シッカチフ以上に乾燥させる方法は

チューブ状で売られている速乾メディウムを使用することです。


メーカーによっては絵の具に混ぜる量に制限がなく、多ければ多いほど早く乾くというものがあります。

しかし大量に使うほど絵の具に透明性が増してしまい

下の絵の具の色が透けて見えるようになる、

絵の具が軽く見える

ツヤの状態が変化するなどあります。

 

絵の具に混ぜる量は各メーカーの使用方法に則ってください。

速乾メディウムを使うと

早ければ数時間、遅くても一晩で乾燥します。

 

しかし、

油絵にはFat over lean(ファットオーバーリーン)という制作の原則があります。

下の絵の具より早く、上の絵の具が乾くと

後から下の絵の具が乾いた時に

乾燥した上の絵の具が割れてしまいます。

ファットオーバーリーンはそれを防ぐための技術法則です。

 

私は制作の途中から乾燥が間に合わなくて

絵の完成が締め切りに間に合わないと思っても作品には使わないようにしています。

 

上記のファットオーバーリーンが崩れてしまうことを恐れているからです。

乾燥が早すぎて上の絵の具と下の絵の具の乾燥スピードが読みにくくなり

作品の品質が自分で分からなくなってしまうのは怖いです。

それと、樹脂なのでどの程度

黄変するのかも不明です。

 

作品がお客様の元へいってしまうと

作家はその作品の経年の画面変化保存環境も知ることができませんから

きちんとした作品作りのために使用を控えています。

 

メディウムは油絵の具本来の性質を越えた画材なので

描く行為を楽しみたい人

早く描かなければならない美大受験生にはお勧めです。

画用液画用液の使い方

オーソドックスな油絵の描き方に則って使い方の順序を解説します。

①揮発性油100%

描き始めは揮発性油を使って絵の具をときます。

油壺にテレピン(ターペンタイン)やペトロール入れて使います。

油絵の具で下描きをする場合は

絵の具を薄めて流動性を持たせサラサラとした絵の具で全体のイメージを描きます。

この時にざっくりした色の濃淡配色を決めても良いです。

薄くした油絵の具で描くので失敗しても布で拭き取って描き直すことができます。

 

②揮発性油50%乾性油40%ニス10%

①の絵の具が乾いたら

乾性油に揮発性油混ぜて油絵の具に調合したオイルを少量足して

絵の具をたっぷり使って描きます。

 

③揮発性油40%乾性油50%ニス10%+乾燥促進剤少量

油絵の具に混ぜるオイルは

徐々に揮発性油を減らして乾性油の量を多くしていきます。

乾性油が画面上に多くなりすぎると

上に乗せる絵の具がはじいてしまいます。

オイルで溶いた絵の具が画面の上に水の粒のように馴染まずに残ってしまうのは

画面に油が多くなりすぎたということです。

注意しましょう。

 

仕上げに向かうほど徐々に乾性油を多くしていくことを

Fat over lean(ファットオーバーリーン)といい

トラブルを防ぐために大切なことです。

 

 

画用液は火事に注意

揮発性油は燃えやすいので火気の近くでは使用しないでください。

リンシードオイルやポピーオイルも

可燃物なので火気には気をつけてください。

 

画用液が付いた紙や布も

乾燥するときに化学反応によって熱が出ます。

この熱がゴミ箱の中で蓄積されると高温になり燃える可能性があります。

 

多くの受験生がゴミを捨てる絵画科の美術予備校のゴミ箱ではボヤが起きることもあるくらいです。

 

安全な捨て方は

ビニール袋に画用液の付いた紙や布を入れ

上から水を入れて湿らせてから

袋の口を結んで可燃ゴミとして捨てます。

 

まとめ

今回は油絵の具に使用する画用液についてのお話でした。

画材屋さんやオンラインショップで購入できる大まかな画用液の名称と 効果を一覧にしました。

油絵具は水彩絵の具とは違う乾き方をします。

オイルの使い方は仕上げに向かうほど徐々に乾性油を多くしていきましょう。

そして火事にならないように注意してオイルの付いた布や紙は捨てる様にしましょう。

リンシードオイルはリンシードオイルでも

スタンドリンシードオイルやサンシックンドリンシードオイルなど

さらに複数の細かく効果の分かれた画用液があります。

画用液に慣れてきたら画材屋さんでより細かくチェックしてみてください。

 

参考文献

書籍

ホルベイン工業技術部編.『絵の具の科学[改訂新版]』.中央公論美術出版,平成30年,205p

金子亨.『普及版カルチャーシリーズ はじめての油彩 ステップ&テクニック』.株式会社グラフィック社,2015年,111p

青木芳昭.『絵画素材の科学よくわかる今の絵画材料』.株式会社生活の友社,2011年,207p

カタログ

ホルベイン画用液マニュアル HOLBEIN OIL & VARNISHES MANUAL

クサカベ画用液 OIL & VARNISHES

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