絵画の視線誘導!名画から構図の考え方を学び絵のレイアウトを決めよう!

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今回は名画に共通する構図についてお話していきます。

大抵の人は構図がしっかりしていれば

デッサンの多少のゆがみには気がつかないとも言われています。 

それほど構図は重要な要素なんです。

絵画の見方

「見る」ことと「観察」することは違います。

美術に慣れ親しんでいる人や

美術教育を受けた人は

1枚の絵の上下左右端から満遍なく全体を見ていて

一箇所に視線が止まりません。

 

しかし一般の方はメインのモチーフを中心

背景や画面の端にはほとんど目が向けられません。

 

絵の見方を知っている人は

モチーフだけでなく背景とモチーフの関係性を見ていて、

目線の動かし方そのそのものが違います。

 

美術教育を受けている人は絵を見た時に

輪郭線の有無

どの色が目立つか

など造形的な要素を指摘しますが

一般の人は

明るい暗いなど漠然とした印象を語る傾向にあります。

 

絵のタッチなどの表面的な特徴から受ける印象にとらわれず

絵の構造や造形を見ることで

作者の制作の意図や作品の示している内容

深く読み取ることができます。

 

しかし一般の人も造形を正確に読み取っています。

どのように感じたのか具体的な言葉で説明できないだけです。

なんとなく明るい

楽しそう

悲しそう

など絵から受ける印象は美術教育を受けている人と同じです。

 

教育を受けている人の方がその印象を具体的

なぜ明るい感じがするのか

この色が印象的だからなのだろうか

なぜこの色を使ったのだろうか 

と細かく意識して見ているだけのことです。

 

目の前の絵画を何となく眺めることと

自分の頭の中で言語化して追及していくことは違います。

これが「見る」ことと「観察」することの違いに繋がっています。

 

では具体的にどんな風に絵を見たら良いか解説していきます。

 

 

絵の主役を探し方

絵の中でどんなものがその絵の主役になっているかは簡単に見分けることができます。

画面に一つしかモチーフがない

人の顔

同じモチーフが並んでいても一つだけ色が違う

形が同じでも他と比べて一番大きい

形や大きさが同じでも画面のど真ん中にある

明暗の差が一番激しいところ 

集中線の先 

このようなものが絵の中で主役になっています。

 

そして

主役へ、もしくは主役から重要な箇所に向けて

視線を誘導する線の事をリーディングラインと呼びます。

 

キリストの頭上の後光や川や滝などの水の流れの線

道路の向き

水平線の向き

など

はっきりとした線だけでなく線状に見えるものにも同じ効果があります。

 

静物画などで

モチーフを一列に並べることも

絵を見る人に線のように繋がった認識させることができます。

これもリーディングラインの働きをします。

 

他にも

グラデーション筆のタッチでも線状の向きを示すことができます。

 

ダヴィンチの「最後の晩餐」は主役がはっきりしていて

一点透視図法により

天井や壁のラインが集中線の役割を果たし

描かれている人の手の向きでリーディングラインを作っています。

 

漫画を読んでいると集中線はよく登場するので

皆さんもすぐにその効果や集中線自体は目にしたことがあると思います。

 

絵画の中にも集中線に似た効果をもつ線が

ちゃんと存在していたんです。

それは木の枝であったり

シーツのしわであったり

雲の流れであったり

様々な形で描かれています。

 

これらのテクニックを使うことで

風景画であってもどこか一点をメインにして描きたいという場合におすすめです。

逆にこれらのテクニックを使わずに

モチーフを分散させて描くことで全体の雰囲気を伝える作品にすることができます。

分散させることで画面のどこを見ても楽しめる作品になります。

 

主役が二つの作品の場合

風神雷神図のように2つのモチーフを焦点にする場合もあります。

主役を2つにする意図はになる概念を表現するのに向いています。

 

2つのモチーフを対等に主役にするには

絵が真っ二つに分断されることのないように気を付けなければなりません。

双子のように似た者同士にしたり

連携するためのポージングを取らせることでモチーフに関連性が持たせられます。

 

 

リーディングラインの役割とは?

画面の中にのように走るリーディングラインは絵の中の経路を示すことに役立ちます。

リーディングラインの効果は次のようなものです。

 

角を避ける

人は四角い画面の角をついつい見てしまう習性があります。

最も人が注意して見てしまうのは画面の中心ですが

2番目は角です。

 

しかし絵を描く人は

必ずしも角に見て欲しいモチーフを描くわけではありませんから

見て欲しいところに視線が行くように工夫する必要があります 。

 

そのためにはモチーフに向かうように

枝や葉っぱの向きを作ってリーディングラインを作り

モチーフに視線が向くようにしたり、

角の部分を避けるように円形のリーディングラインを画面に作って

見る人の視線が四隅にそれるのを防ぎます。

 

水平の視線誘導

絵を見ている人は視線を左右に動かして

画面の上をジグザグに見ていることがあります。

 

水平線や地平線山の山脈

街並みなど

画面を左右に横切るモチーフが配置されている場合です。

 

この場合、

ジグザグの折り返し地点視線が集まりやすくなってしまいます。

こうなってしまうと画面の両端から

視線が滑り落ちてしまう可能性があります。

見て欲しいモチーフまでの視線誘導が上手くできなくなってしまいます。

 

これを回避するために

折り返し地点になる部分に

ストッパーとなるモチーフを配置する場合があります。

 

画面を横切る道路には車を配置したり

木を設置したりしてジグザグの両サイドにストッパーを置きます。

視線の流れが地平線をたどって終了、にならないようにします。

 

 S字ラインのマイルドな視線誘導

マニエリスム時代やバロック時代は

動きのある表現が好まれていました。

ファンの方はご存じだと思いますが

ジョジョの奇妙な冒険の作者荒木飛呂彦先生は

イタリアの美術に大きく影響を受けたそうです。

 

登場キャラクターの「ジョジョ立ち」もこの時代の複雑なS字カーブの影響だそうです。

「蛇状螺旋形( フィグーラ・セルペンティナータ)」とは

体を螺旋状にねじった人物のポーズです。

人体のなめらかさ、動きのある絵になっていますよね。

 

構図もモチーフをS字に配置することで

角を回避し視線を蛇腹状に流動的な

なめらかな視線の巡らせ方をさせることができます。

 

 

絵の中にある構造線とは?

http://www.metmuseum.org/art/collection/search/435877

構造線とは画面の中で柱となる線のことです。

 

まっすぐ立った人物

などはまっすぐ描くことで

絵の中に縦の構造線を持たせることができます。

 

構造線は縦、横、斜めの三つがあります。

それぞれは別の印象を持たせることができます。

 

縦の線は立っている感じ

横の線は動きのない感じ

斜めはダイナミックさや動きを感じさせる

 

ちなみに構造線をウェーブさせると

柔らかな印象を与えることができます。

 

縦・・・堂々とした、 毅然とした

横・・・穏やかな

斜め・・・ドラマティック、不安定、緊張感

放物線・・・優美な、優雅な

円・・・丸みのある、超然とした

縦+横・・・厳格な、厳粛な、古典的な

S字・・・有機的

 

しかし絵は一枚の中に一方向の線の向きだけで

出来上がっているわけではありません。

必ずサブの角度の線が必要になります。

この関係をリニアスキームと呼びます。

 

名を残す名画は線だけを抽出してもしっかりと完成されているのが特徴です。

計算され尽くされ、それが作品にも表れています。

 

 

絵の中のバランスの取り方

主役を真ん中にする場合

聖母子の絵などで有名な三角形の構図です。

聖母マリアを中心に人物画3人描かれているのが特徴です。

 

主役を真ん中に配置する場合は

脇役が左右にきて左右対称の構図になるのでバランスが良く感じられます。

 

このような構図は主役の立派さが強く表現できる構図で

フォーマルバランスと呼ばれます。

 

しかし安定しすぎるのが欠点で

格式張った様子を表現したくない場合でも

見る人には厳格なイメージや格式張ったイメージを与えてしまいます。

 

風景画や静物画にこの構図を取り入れると人工的な印象を与えてしまいます。

自然な情景を描きたい場合は注意が必要です。

 

この欠点を解決したのはラファエロです。

ラファエロは左右のバランスを少しずつ崩して変化を出し 

自然なポーズで人物を描きました。 

 

主役を左右どちらかに寄せて描く場合

主役を左右どちらかに寄せて描くとき

反対側サブのモチーフをおいてバランスをとる方法があります。

 

画面の右側に大きく主役を描いて

画面の左側に小さく別のモチーフを描くことで

画面の中でモチーフが釣り合うようになります。

 

一見、主役だけで絵が成り立つように思いますが

大きな主役のモチーフが片方にひとつだけだと

中途半端な間が空いているようで

不安定な印象を持ってしまいます。

 

見る人の視線を画面の隅々まで誘導する意味でも

絵の中の世界観を強くするためにも

サブのモチーフがとても効果的です。

 

 

なぜ絵はバランスをとらなければならないの?

なぜ名画はバランスが取れているのか

その理由ははっきりと分かっていません。

ただ分かっていることは

名画は必ずバランスが取れているということです。

 

ドイツ出身の心理学者であり、視覚的芸術における知覚構造を分析した

ルドルフ・アルンハイムは絵画のバランスについて次のように述べています。

「世の中でバランスが取れている状態というのは部分的、  もしくは一瞬しかなく、世界はつねに有為転変している。 そして芸術というのは、 そういう中で、バランスが取れた、一瞬の理想的な瞬間を絵の中に組織化しようとする試み。 絵は単にバランスを取ることが目的なのではなく、 その方法は無限にあり、どうバランスを取っているかという点に意味が込めてある。」

ルドルフ・アルンハイム

 

画面構成の完成度が高い名画は

遠目に見ても小さな画像であっても

解像度の低いぼやけた画像であっても 

絵のおおよそが読み取れます。

小さなサムネイル画像でも

絵の良し悪しが分かるとされるほど構図はそれだけ重要です。

 

構図の大切さは分かっていても

自分の絵に取り入れるのは難しいと思うと思います。

しかし、良い構図というのは存在します。

これまでの長い絵画の歴史の中でそれは証明されています。

それを取り入れることで良い構図の絵を生み出すことができます。

 

画面構成の必勝パターン

絵はこの位置にこのように配置するとかっこよく決まる

と言うルールが存在します。

 

画面の中央は大切なものを示す位置

画面の上には価値の高い物を置く位置 

とされています。

 

しかし風景画においてはこれらの序列は当てはまりません。

 

風景画の場合は手前から奥に道が続いていくような

視線を誘導させるモチーフを描き、

それを後景で右上か右下がりの斜線とつなげて

中景にメインを置くと上手くいくとされています。

 

肖像画は胸より上の部分をキャンバスにおさめ、

体の左右どちらかを3/4見せるような

やや斜めを向いてポーズをとってもらった人物が肖像画のテンプレートです。

昔の貴族の肖像がみたいな感じですね。

 

 

構造線をとる方法

キャンバスに十字線対角線を引きます。

これはキャンバスの形がF・P・M・Sどの形でも同じです。 

デッサンを習ったことがある人なら

キャンバスに十字線を引くのはお馴染みかもしれませんね。

主役の構造線はこの線と関係しています。

 

モナリザは左目が画面の中心線にちょうど乗る形で描かれています。

 

十字線と対角線に沿って描けば厳格な雰囲気の絵になり、

ゆるく十字線と対角線を示す程度に描けば自然な柔らかさの絵になります。

 

直交ライン

対角線に向けて対する角から垂直に下ろした(直交ライン)場合

この交点を「長方形の眼」と呼びます。

一枚のキャンバスに4箇所できますが

そのうちの1箇所に主役のモチーフを置くとかっこよく決まると言われています。 

 

直交ラインを伸ばした先

キャンバスの端っことの接点から

反対側の長辺垂直に線をおろし

対角線と垂直に下ろした線の交わったところから

さらに短辺へ線を下ろす

 

これを繰り返すことで「長方形の眼」へ吸い込まれるような

螺旋状のパターンが生まれます。

このパターンをベースにすることで

絵を見る人の目が吸い込まれるような構図を生み出すことができます。

有名な作品では

ゴッホの「夜のカフェテラス」にも活かされています。

 

 

秩序を大切にして描くとどんな効果があるの?

人間は

規則正しく並んでいる

大きさが揃えてある

等間隔になっているなど

のものを見ると安心します。

 

秩序立っているということは見ている人に安心感を与えることができます。

極端に隅っこに寄っているモチーフの絵を見ると

「なんでこんなにギリギリに描いちゃったんだろう」と思うこともあると思います。

 

何か特別な意味があるのかもしれないと

見る人に作者の意図していない憶測を与えてしまいます。

 

 

疎と密の関係

私が高校1年生の頃、美術の先生がこのことをよく口にしていました。

描き込み度合いの激しいものを「密」

あまり書き込みがない余白が多い部分を「疎」 

 

しっかり描き込む部分と余白の部分とを組み合わせることで

画面を魅力的に構成することができます。

 

 

まとめ

1つもしくは対になる主役があり、 視線を誘導するリーディングラインによって、見る人の視線を作者がコントロールできます。

名画は縦・横・斜めなど構造線があり、キャンバス引かれた十字線と対角線や直交ラインがモチーフの配置と重なっています。

秩序立っている絵は見ている人に安心感を与え、見る人に作者の意図していない憶測を与えてないようになっています。

配置に困った時や、画面が物足りないけどどこに何を描き足そうかと悩んだ時は参考にしてみてください。

 

参考文献

書籍

秋田麻早子.『絵を見る技術――名画の構造を読み解く』.株式会社朝日出版社,2019年,287p

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